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れいばんサンのひとりごと

第12球 「弱気は最大の敵」

「本当にご迷惑をおかけしました。ほら、お前も謝れ!」

姪の小森萌子の頭を押さえながら、山田浩二が警察官・佐藤一輝に謝罪した。
「いえいえ、本官は迷惑をかけられていません。それに、悪いのは倒された相手の方で姪っ子さんでないことは取り調べで判明しましたから」
「ちっ。だから最初から言ってんだろ・・・」「萌子!!・・・おまわりさん、本当にすいません」
悪態をつく萌子を制して、山田が再び佐藤に頭を下げた。
「いえいえ、今時珍しい事件でしたし。というか、やはり最近は女の子の方が元気なんですねえ、関心関心」

扉を閉め佐藤が去ったところで「何があった」と山田が萌子を問い詰めたが、萌子は「何でもない」と呟いて出て行った。
「おい・・・萌子!まったく・・・。皆さん、御迷惑をおかけして・・・」
「あんくらいの年齢の娘は難しいもんさ。で、さっきの話の続きを聞かせてくれないかい?」
山田のセリフを最後まで聞かずに、花房サトシが徐に質問した。
「はい?あ、ああ。そうでしたね・・・。萌子の親、つまりワタクシの姉・結花と義兄は仲の良すぎる夫婦でして。ワタクシも年頭から居候させてもらっていましたが、2人は娘の萌子のことなんかお構いなしなんです。当然、萌子が中学に入ってからも野球をやっていたことに気付いていませんでした」
「や、野球ううう!?ど、どういうことなんだい!?」
山田が一生懸命語り始めたところで、今度は全員が一斉に口を挟んで質問した。


「なあ萌子、ニュージーランドには行かないの・・・」
「うるせえなあ!それより、シンちゃん弱すぎだよ。オトコなんだからもっとケンカくらい強くなんなきゃさあ」
顔中に絆創膏を貼った新津フミヤの質問を跳ね除けて、萌子がケラケラと笑った。だが、新津は萌子の笑顔が少し暗いのを見逃しはしなかった。
「野球はさあ、ニュージーランドでも出来るんじゃないのか?」
「バカ!ニュージーランドは野球が全然盛んじゃないんだよ!」
萌子は急に立ち上がりその場から走り出した。新津は追いかけたが追いつけず、300メートル程先で息が上がってしまった。
「あ、あいつ、本当に早くなったなあ。足・・・」


「萌子の母、つまり姉の結花も実は野球をやっていたのですが、御存じの通り、当時も今も女子選手は甲子園大会にすら出られません」
今度こそ邪魔が入らないように、という勢いで山田は少し早口で話を始めた。
「姉は、そんな境遇を早くに察知して、中学を出た時からスッパリと野球はやめました。その後は、野球のことなんか忘れたかのように一心不乱に仕事をして、義兄と出会ってすぐ結婚しました。それでできた子供が萌子です。しかし、血は争えないもので、萌子は小学校に上がる前から野球に興味を示し始めました。もちろん、子供の好きなことを止めさせようとは、姉自身も思っていません。ですが、どうしても野球については、将来娘が悲観するのが目に見えていたので、それとなく遠ざけようとしていました。ところが、相反して萌子は野球に没入していき、中学生になったら男子に交じって野球部で活動し始めました。そのことは、親である姉にも黙っていたようなんですが、それが先日バレて、野球部を辞めるように言われて・・・。萌子はあの通り、少し気の強いところもあるので・・・」
「少し・・・?」
という、一同の心の呟きが音となって店中に広がったが、山田は気にせず続けた。
「急に反抗的になったところに義兄の海外転勤が決まりまして・・・。難しい年頃ですから、余計に意固地になって、姉夫婦とは一緒に行かないと言い出したらしくて。そのゴタゴタがあった時は、私も既に店が決まって住まいもできたので姉夫婦の家から出ていました。それで、家出した萌子がうちに居つくようになって・・・」
「お姉さんたちは、それをすんなり受け入れたのかい?その、外国に一緒に行かないっていうことを」
サトシが思わず質問した。
「いえ、もちろん賛同しませんでした。いや、今でもしていません。ただ・・・姉も、そうは言っても同じ《夢》を追ってきたので、やはり悩んでいるようです」
「だったら、やらせてやろうよ!」花房タツヤが叫ぶ「まだあきらめさせることないじゃん!オレらの勝負に付き合ってもらおうぜ!」そういって、店を飛び出していった。
「お、おい!」サトシが制する間もなく、タツヤの姿は商店街から消えた「まったくどうしてああ、単細胞なのかね・・・」

「うおおおおお」
畑の前で異様な声をあげながら中腰で土を掘り起こす青年の姿を、萌子はぼんやりと眺めていた。

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