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れいばんサンのひとりごと

第10球 「一番のライバルは自分だよ!」

「絶対に、そっち試合が終わったら返してくださいね!」

学校を出る松島真司ら4人を見送りながら、板野ユウキが叫んだ。
「そいつもオレも、その後ならまだ甲子園に間に合いますから!」
「おお!」黒原茂雄は、ユウキに認められて照れる稲見たくみを肘で突いた。
「これーで、イケますね」「ああ」
エリザーベス・ヨウヘイの喜びに松島も同調した。
「そしてキミも、入ってくれるんだろ?茂雄くん」
「・・・仕方がないですね」


「・・・はあああ」
夢小金井商栄会をトボトボと歩く花房タツヤの悲壮な声が、響き渡るでもなく喧騒の中にかきけされた。
「あと4人、かあ・・・石川さんがいたらなあ・・・」
「あ、こら、ま、待てーーー!!」
タツヤのため息と同時に、悲痛な商店主の声が商店街に響き渡った。
「な、なんだなんだ?」
そう振り向いた瞬間、タツヤの肩に思い切り《何者か》がぶつかり、思わず倒れこんだ。
「て、いってーな!このやろう!!」
「うるせー、クソじじい!!」
《何者か》は、タツヤにぶつかると同時に自分も倒れたが、すぐさま飛び上がり悪態をついて走り去った。
「じ、じじい・・・?」
タツヤはしばらく呆然と、走り去る《何者か》を見つめていたが、何かを察知して立ち上がる「ま、まんびき・・・?」
ドン
追いかけようと意気揚々立ち上がった矢先、《何者か》を追いかけてきた商店主が勢い良く背中にぶつかり、タツヤは顔面から思い切り道端に倒れこんだ。

「うーん・・・。はっ」
「まあったく、情けないやろうだなあ」
目を覚ましたタツヤは父・サトシの嘆きを聞いて、カラダをバネのように跳ね起こした。
「はっ。う、うるせー!ちょっとは息子の体を心配しやがれ!」
「はあ、まったく。頭の中身も、そんぐらい元気なら良かったんだけどなあ」「すみません」
サトシの呟きと同時に、ぶつかった《商店主》がタツヤに謝った。
「いやいや、いいんだよ山田くん。こいつはこれくらいのことでは壊れないから。それより、大丈夫だったかい?犯人に逆上されてケガかなんかしていないかい?」
「ええ・・・大丈夫です・・・。それに、あれは・・・」
「なんだよオヤジ、知り合いかよ。にしてもオレは被害者なんだぞ・・・」
タツヤの背中にぶつかった万引き未遂被害の商店主・山田浩二が何か言いかけたところでタツヤが口を挟んだ。
「うるせえこのコンコンチキ。この山田くんはなあ、店を継ごうともしないでふらふらしているお前なかよりも遥かに立派な方なんだよ。まだ35歳と若いのに、この商店街を救おうと思って都会の会社を辞めて《シャッター》の1つを借りて新しい店を始めてくれたんだ。ね、山田くん」
「いや、そんな立派なものじゃ・・・」
一瞬笑顔を見せ少し照れくさそうにした山田だが、すぐさま表情の側面に暗い陰を落としてうつむいた。
サトシは、その山田の苦笑いにも似た照れ笑いに違和感を感じて見つめた。
「おいおい聞いたかよ!まあたあの、新参者様の店で万引き未遂だって!?」
沈黙の会話に割り込むように、ズカズカと理容師の吉田幸太郎が店に入ってきた。
「あっ」
自分の話題の主である山田浩二が、まさか居酒屋《球壱》にいるとは想像もしていなかった吉田は、何事も無かったかのようにすごすごと退散しようしたところ、サトシに、丸めた新聞紙で頭を殴られた。スコーン!
「まあったく、お前もタツヤ並に空気を読めないバカ頭だな」「や、やかましい!」
吉田とタツヤが2人揃って抵抗したが、サトシは気にも止めず山田に顔を向けた。
「で、あの女の子は、あんたと関係あるのかい?山田くん」
「はあ?お、おんなあ・・・?」タツヤと吉田が同時に顔を見合わせ疑問の声をあげた。


ふうう・・・。げ、げほげほげほ・・・!
児童公園を少し大きくした広場の端の小高い芝生で、1人の少女が力任せにたばこを吸い込んだものの、すぐにむせ返った。
「ばあか、慣れないことすんなよ」
たばこに咳き込んだ少女の後ろから、1人の少年が近づいて話しかける。
「そんなことをしたからって、何にも解決しないだろ」
「・・・・・」
少年・新津郁弥の言葉に、小森萌子はただ黙って芝生を見つめていた。

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